ざっくりノンフィクション

最近読んだ本をざっくり紹介。ノンフィクション中心。

『テレビでは言えない大相撲観戦の極意』向正面の舞の海さん、教えてください!

現役時代に「技のデパート」と呼ばれ、現在はNHK大相撲中継でおなじみの舞の海秀平氏による相撲観戦ガイド。

多くの人がご存知のように、そもそも相撲のルールはいたって単純である。足が土俵を割るか、手が地面につくかで勝敗が決まる。その一方で普段あなたが相撲のテレビ中継を見たとき、ふと気になったこと、わからない用語、意味不明なしきたりを見聞きすることも案外多いのではないだろうか。そんなときに役立つのが本書である。

たとえばテレビでよく聞く相撲用語。「かいなが返る」「がっぷり四つ」「がぶる」「左四つ」「右四つ」「かっぱじく」等がある。たとえば「がっぷり四つ」については舞の海さんいわく、「両者ががっちりと組み合い、互いのまわしを取ることを言います。(中略)がっぷり四つの状態では、相手を引きつける力が強かったり、相手の下手や上手を切る技術が優れている力士のほうが次の展開へ優位に運べます。ちなみに、私は体が小さく、パワーで勝負するタイプではなかったので、現役時代にがっぷり四つで組んだ経験は一度もありません」というように、本人のエピソードも交えてくれるので、頭にすっと入ってくる。

少し変わったところでは、力士の懐事情も紹介している。力士は十両以上の関取にならない限り月給は出ないそうだ。幕下以下は「養成員場所手当」が場所ごとに支払われ、幕下は15万円、三段目は10万円、序二段は8万円、序ノ口は7万円。ちなみに関取になると、十両は103万6千円、平幕は130万9千円、三役が169万3千円、大関が234万7千円、横綱が282万円。このように、番付と連動して月給は上昇するらしい。

他にも興味深いトピックが数多く展開されている。一部抜粋すると、「日本人力士の有望株は誰か?」「しこ名は期待値を表す?」「知っていて得する相撲用語」「知られざる相撲部屋の系譜」「白鵬は親方になれない!?」「八百長相撲と人情相撲は違うのか」「懸賞は誰でもかけられるのか」などなど、見出しだけで興味をそそられる。

『建築案内@東京』東京の今を感じれる場所

建築案内@東京

建築案内@東京

 

建築という切り口で東京の名所をしていく本です。地元の生活者や観光客から愛される「よりどころ」となるような場所が本書の選定対象となっています。具体的には商業施設や都市公園、カフェやレストラン、ホテルやホステルがメインです。逆に超定番や話題先行型の建物は少ないかもしれません。

本書で紹介されている建築を一部を紹介しましょう。東京ステーションシティ、大手町の森、東急プラザ銀座、CORED 日本橋アネックス広場、南池袋公園、浅草文化観光センター、代々木VILLAGE by kurkku、根津美術館CASCADE HARAJUKU、東京ガーデンテラス紀尾井町2k540 AKI-OKA ARTISAN、3331 Arts Chiyoda、マーチエキュート 神田万世橋、la kagu、虎ノ門ヒルズ二子玉川ライズ・・・・

書き出していくと、一般的な東京案内ガイドや、東京街歩き本とやや趣きが異なるかもしれません。ですが、そこがユニークでとても面白いと個人的に感じています。また本書の他の特徴として、案内一つひとつに設計者と運営者が添えられている点が挙げられます。たとえば、東京ステーションシティは設計者がジェイアール東日本建築設計事務所日建設計。運営者が東日本旅客鉄道といった具合です。この辺は本書の発行元が日経BP社、編集が日経アーキテクチュアならではという気がします。

『スーパーヒューマン誕生! 人間はSFを超える』人間拡張工学から目が離せない

スーパーヒューマン誕生! ―人間はSFを超える (NHK出版新書 480)

スーパーヒューマン誕生! ―人間はSFを超える (NHK出版新書 480)

 

スーパーヒューマンという言葉を聞いたことはあるでしょうか? 空を飛び、光のような速さで走り、目から熱線を放射し、驚異的な視力を持ち、怪力を発揮する。アニメやSFだけに生きる空想上のキャラクター。イメージは大体こんな感じです。そんなスーパーヒューマンが最新テクノロジーによって現実世界に誕生する日がまもなくやってくる。それを実現させる技術・研究の最前線を紹介しているのが本書です。

たとえば、腰や脚部に装着することで重たい荷物の持ち運びをアシストするパワードスーツ、筋肉の電気信号や筋運動による皮膚表面の変化を読みとる従来タイプとは異なる電動義手、「グーグルグラス」や「アップルウォッチ」のようなウェアラブルコンピューター、ヘッドマウントディスプレイなどに代表されるVR技術などです。ちなみに、近年これらの成果が次々にもたらされるきっかけとなった技術的ブレイクスルーは、センサーや信号処理技術の飛躍的向上によるところが大きいそうです。

もちろんスーパーヒーマンを生み出す過程はまだ発展途上で、完全実現に向けて人間拡張工学(人間にもともと備わっていた運動や感覚、知的処理機能をテクノロジーによって物理的、情報的に拡張することを目指す研究領域)をどう応用させていくか、研究者は日々格闘しています。

『世界一やさしい 経済の教科書 1年生』経済ニュースが楽しくなる

経済入門系の本でダントツのわかりやすさです。「GDP」「需要と供給」「信用創造」「円高と円安」「インフレとデフレ」といった、おなじみの経済用語を著者独特のわかりやすさで、本質だけをシンプルに説明してくれています。

雑談的な内容にも興味を引かれました。たとえば、貨幣にまつわる章では「電子マネー」や「仮想通貨」を取り上げ、お金の未来を考察し、GDPや給料にまつわる章では「IoT(Internet of Things)」を取り上げ、今後のAI化やロボット化の影響を見越して雇用と労働の意義を読者に問いかける。また雑談ではありませんが、景気についての章では、景気動向の予測に日経新聞の「景気指標面」を活用せよとアドバイスし、同時に指標の見方や指標同士の関連づけ方を伝授してくれて、非常に読み応えがあります。

このように、経済についての最新トピックや、経済全般に対する理解力を高めるような具体的な方法を伝授している点が本書の大きな特徴です。初心者向けとはいえ、なかなか本格的な仕上がりになっていると思います。

『宇宙エレベーター その実現性を探る』気軽に宇宙に行ける日はくるか

宇宙エレベーター その実現性を探る(祥伝社新書)

宇宙エレベーター その実現性を探る(祥伝社新書)

 

エレベーターと同じようにケーブルを使って宇宙に行くというアイディアがあります。「宇宙エレベーター」と呼ばれるもので、一度はSFやアニメで目にした人も多いかもしれません。簡単な仕組みとしては、宇宙エレベーターはケーブル、クライマー、海上ステーション、静止軌道ステーションから構成されています。鉄道に例えるならば、ケーブルがレール、クライマーが車両、海上ステーションや静止軌道ステーションが駅に相当します。

ところで、宇宙エレベーターの実現性については、「10年後」「50年後」「そもそも実現は不可能だ」など、意見はさまざまに分かれています。ケーブルの材料とクライマーの動力源という2つが、実現を阻む大きな壁となっているからです。

しかし解決への見通しがまったく立っていない、というわけではありません。ケーブルにはカーボンナノチューブ、動力源にはマイクロ波による無線電力伝送やレーザーによるエネルギー伝送。これらが問題解決への突破口になると期待されています。とはいえ、まだまだ実現に向けたハードルは高いようです。たとえば宇宙エレベーターのケーブルの長さにするには10万キロにする必要がある一方、現在のカーボンナノチューブは最長数センチにしかできないそうです。他にも、スペースデブリ、海上ステーションや静止軌道ステーションの制御、宇宙空間の法律や安全保障など、宇宙エレベーター実現に向けた課題は山積しています。それでも、地道な実証実験や新しい技術のブレイクスルーによって乗り越えられるはずだと著者は期待を寄せています。

また、本書は宇宙エレベーターの最前線にも触れています。CSRの一環として宇宙エレベーター構想を立ち上げた大林組JAXA宇宙航空研究開発機構)やJAMSS(有人宇宙システム株式会社)といった関係者にインタビューを行っています。宇宙エレベーターの入門書として最適な一冊です。

『1493 世界を変えた大陸間の「交換」』世界の成り立ちを知る

1493――世界を変えた大陸間の「交換」

1493――世界を変えた大陸間の「交換」

 

グローバル化という言葉をよく耳にします。Wikipediaによると「社会的あるいは経済的な関連が、旧来の国家や地域などの境界を越えて、地球規模に拡大して様々な変化を引き起こす現象」を指します。

そのグローバル化とは近年始まった現象ではありません。1492年にコロンブスが大西洋を渡り、最初にアメリカ大陸に到達したのがすべての始まりでした。それをきっかけに1493年以後、ユーラシア大陸とアメリカ大陸、アフリカ大陸のあいだで生物と文化の交換(=コロンブス交換)が盛んになりました。グローバル化とはちょうどその時期に始まった現象であり、コロンブス交換こそがグローバリズムの触媒だったというのが本書の趣旨です。

著者のチャールズ・C・マンは、コロンブス交換によってとくに影響を受けた地域、生物、資源に焦点をあて、各地で起きた変化を詳述していきます。たとえば対象となる生物や資源として、タバコ、銀、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、グアノ(鳥糞石)、ゴムノキ、マラリア原虫、黄熱ウイルスなどを取り上げています。

ちなみに、コロンブス交換の恩恵にあずかったのは為政者や当時の先進国のごく一部で、直接関わった人の多くは耐え難い苦しみを味わっていました。おもにコロンブス交換から派生した疫病、飢饉、為政者による搾取、虐待などが影響しています。本書はこうした人々の苦闘の歴史も追っています。

1493年以後、世界は絶え間ない交流によって、ときには衝突と混乱を引き起こしながら、生態系は変容を遂げ、経済的な結びつきを深め、世界規模でグローバル化が進行しました。すべてはコロンブス交換の産物だったのです。その意味でコロンブスは新世界を「発見」した人物ではなく、新しい世界を「創り出した」人物として記憶されるべきかもしれません。

『盆栽 BONSAI 』美しい名品 一挙公開

盆栽の入門書です。文庫というコンパクトなサイズながら、盆栽の歴史や名木のカラー図版が豊富で、内容がとても充実しています。

一般的に盆栽は年寄りくさいイメージがあるかもしれません。しかし個人的には以前から興味をもっていました。鉢の上という限られた空間で樹木を育て、時間をかけて一つの景色を創り出すところに魅力を感じているからです。

そんな盆栽ですが、現在大きく2つのジャンルがあります。「松柏盆栽(しょうはくぼんさい)」と「雑木盆栽(ぞうきぼんさい)」です。松柏とは、松や檜のような常用針葉樹の総称であり、雑木類にくらべて生命力が強いため、樹齢を重ねた古木が多く、盆栽界の中心となっています。一方、雑木は松柏とは異なり、その大部分が落葉樹系の樹木です。四季に応じて芽吹きや紅葉といった変化が楽しめる点が大きな特徴です。

上述のような初心者向けの説明ももちろん参考になりますが、やはり本書のイチバンの魅力はなんといっても、歴史に残る松柏盆栽や雑木盆栽の名品をカラー図版でたっぷり紹介している点です。パラパラとページをめくるだけでも盆栽の名品が次々と目に飛び込み、その美しさに思わずため息が漏れます(ちなみに全190ページ中、100ページ近くがカラー図版)。盆栽に興味がある人もない人も楽しめる一冊です。