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『暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待』暴力は遺伝的なものか

暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待

暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待

 

「暴力的な人(犯罪者)は遺伝的なものか?」

扱い方によっては優生学や人種偏見を助長させかねない難しいテーマに本書は切り込む。トンデモ本ではないかという心配は無用だ。著者は慎重に、科学的に、かつ実証データも交えながら淡々と説明を重ねている。

本書の結論を言えば、生物学的要因と社会的要因との複雑な相互作用(=バイオソーシャル)が、反社会的性格や暴力を引き起こすという。ここでいう生物学的要因とは、おもに脳や自律神経系の構造的・機能的欠陥を指す。また、社会的要因とは虐待や栄養不良などを含む劣悪な家庭環境などを指している。

ちなみに、神経科学の原理と技術を適用して反社会的行動の起源を理解しようとする学問を著者は神経犯罪学と呼んでいる。日本ではまだ一般的でないかもしれない。しかしアメリカでは連続殺人などの凶悪犯罪は日本と比較にならないほど多い。それゆえこの分野の研究は進んでいる。日本(とくにマスコミ)は凶悪犯罪の主因を家庭環境に求めるケースをよく目にする。そのなかで本書の神経犯罪学の知見を持っておくことは無駄ではないはずだ。