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『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか』メディアの役割をあらためて問う

デジタル・ジャーナリズムは稼げるか

デジタル・ジャーナリズムは稼げるか

 

アメリカのメディア業界では急激な変化がおこっている。これまでの役割やビジネスモデル、さらに存在意義までもが揺らいでいると言っても言い過ぎではない。理由の一つとして、情報の受け手と送り手、双方の関係性の変化が挙げられる。それを促すテクノロジーの影響も見逃せない。本書はそのようなメディア界の現状や未来、進むべき方向性について多くの紙幅をさいている。

著者の専門は企業ジャーナリズム。ニューヨーク市立大学で教鞭もとっている。そのため本書の内容は自然とアメリカの事例が目立つ。しかしご存知のとおり、アメリカは世界のジャーナリズムの中心地であり最先端でもある。ここでいま起こっている出来事は今後の世界的な潮流と読みかえて差し支えないであろう。

ジャーナリズムとは、「コミュニティが知識を広げ、整理するのを手助けする仕事」というのが著者の定義である。テクノロジーの発達により、たとえば記事媒体は紙からデジタルへ移行しつつある。それに伴い、メディアはテキストに加えて動画、音声、あるいはそれらの組み合わせという新しい方法で情報を提供し始めた。広告以外の稼ぎ方として記事の価値を重視するならば、一見方向性は悪くないように見える。読者に新たな価値を生み出しているようにも見える。

しかし著者に言わせれば、それは「物語を語る」という昔ながらの手法を踏襲しており、ジャーナリズムの定義に照らすと、記事の価値も方向性も本質的には変わらないと指摘する。それでは何が正解なのだろう?

それはニュースを補強するためのデータだけの記事かもしれない。基本的事項だけを伝えるシンプルな記事かもしれない。あるいは分析解釈を加えた解説記事かもしれない。答えは著者自身もわからない。ただ少なくとも従来の延長線上でないことは確かだ。このような議論がアメリカで行われていることを知るだけでも、本書を読む価値は充分にある。