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『ヒットの崩壊』音楽マーケットの実情をあぶり出す

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

 

音楽業界の今を知りたければ本書で間違いない。音楽業界の変遷やヒットチャートの変化、音楽ソフト市場の縮小や音楽ライブ市場の拡大、さらに世界全体の音楽産業の潮流、その先行きなどに対する考察が主な内容になっている。

著者は現場最前線の関係者(ミュージシャン、レーベル、プロダクション、テレビ、ヒットチャート、カラオケ)への綿密な取材をベースに、自身の音楽ジャーナリストとして培ってきた知見を加えて話を展開する。説得力も充分にある。これで237ページ、800円(税抜)はどう考えても買いだ。

一番印象に残った内容は、音楽業界の「ヒットの方程式」に変化が見られる、と指摘した箇所だ。具体的にいうと、2010年前後からマスメディアへ大量露出を仕掛けてブームを作り出す、という手法が通用しにくくなったことを指している。そしてソーシャルメディアの普及と合わせるように、いわゆる「ヒット曲」というものが生まれにくくなった。生まれたとしても局所的に生じるケースがほとんどで、これまでの「ヒット曲」と様子が異なり、「CDがたくさん売れること」と「曲が流行っていること」が必ずしもイコールではなくなったと著者は指摘する。

たしかに言われてみればそうかもしれない。たとえば、2011年から2015年のオリコンの年間シングルTOP5を見れば一目瞭然だ。2013年のEXILEと2015年のSKE48を除き、すべての年の1位から5位までをAKB48が独占するという異様な状態になっている。つまり、単純にCDの売上数を集計し、それをランキング化したオリコンチャートは、本当の流行歌を反映したものではなくなっている。ちなみに、この現象は「AKB商法」では片付けられないものだ。詳細は本書にあたってほしい。

そのオリコンとは別に独自のヒットチャートを打ち出しているのが、ビルボードである。彼らの発想はあくまでもリスナー目線で、リスナーが音楽にどういう形で接触しているかを数値化したデータを多方面から集めてチャートを作成する。オリコンがCDの売上枚数一辺倒であるのに対して、ビルボードはそれに加えてラジオのオンエア回数、ダウンロード数、ツイッターでのアーティスト名・楽曲名のツイート回数、ルックアップ回数、YouTubeでのミュージックビデオ再生回数、ストリーミングサービス再生回数などを独自の係数で集計するといった具合だ。

断っておくが著者はオリコンが時代遅れだ、と主張しているわけではない。むしろ売上枚数という一つの基準で徹底して正確な尺度で作られており、それがオリコンのヒットチャートの価値を担保していると述べている。

このように、ヒットチャートの話一つをとってみても、変わりゆく音楽マーケットの実情を知るには十分すぎるほどである。