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『ピカソになりきった男』真贋の価値とアート市場の実像

ピカソになりきった男

ピカソになりきった男

 

 「ピカソが生きていたら彼を雇ったであろう」

ある美術評論家はギィ・リブをこのように評している。著者のギィ・リブは現在69歳。2005年に逮捕されるまで数十年にわたり、ピカソ、ダリ、シャガールなどを模した作品を世に出し続けた天才贋作作家である。本書は破天荒な彼の人生とアート市場の闇を、ギィ・リブ本人が描き下ろした稀有な一冊である。

贋作といっても彼の作品はただの模倣ではない。彼の作品は、ピカソ、ダリ、シャガールなどの巨匠が生み出したかもしれない「新作」を「創作」したものである。そのために一番重要なことは巨匠本人に徹底的に「なりきる」ことだという。たとえば、シャガールは妻が毎朝持ってくる花束の色から着想を得ていた。それにならい、ギィはまったく同じようにサン=マンデの花屋と契約し、毎朝その日の花を届けてもらっていた。

次第に彼は完璧な贋作の作り方を、「画家を調べ尽くす」「その時代の画材を入手する」「その画家になりきる」という3つに集約させ、完全に自分の中でシステム化していく。月曜日はピカソ、木曜日はマティスといった具合に自在にコントロールできるようになった彼は、大量に「新作」を「創作」していく術を身につけたのだ。ある意味、歴史上の人物の役作りに挑む俳優に似ているかもしれない。

ところでギィは本書でアート市場の闇についても触れている。ギィ逮捕の一件は、ほんの氷山の一角で、そこで明るみにされた数百点より、はるかに多くの贋作が現在もアート市場に出回っているというのだ。そして、ギィ自身の贋作もいまだ多く市場に流通しているという。