ざっくりノンフィクション

最近読んだ本をざっくり紹介。ノンフィクション中心。

『戦争の物理学―弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか』科学書のような歴史書

戦争の物理学―弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか

戦争の物理学―弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか

 

古代の戦争から第二次世界大戦、さらには近年のドローン(無人飛行機)まで「兵器」と見なせるすべてを、物理法則に照らしながら解説していく。一見専門的な書物にも見えるが、数式を極力はぶき、簡単な言葉で説明してくれるので心配はいらない。

内容は物語仕立てになっている。とくに冒頭のカデシュの戦いから中世の戦争、ガリレオニュートンが登場し、産業革命やナポレオンの時代を経るあたりは、まるで歴史書を読んでいる感覚だった。

『フジツボ―魅惑の足まねき (岩波科学ライブラリー)』魅惑のF

フジツボ―魅惑の足まねき (岩波科学ライブラリー)

フジツボ―魅惑の足まねき (岩波科学ライブラリー)

 

フジツボを愛してやまない著者による解説本。まるごと1冊フジツボの話題で埋め尽くされている。

フジツボとは、エビやカニと同じ甲殻類の仲間で、動き回らずに水中の岩や人工物などにピタリとくっついて生息する付着生物である。本書はそんなフジツボにまつわる基礎知識、歴史、文化はもちろん、フジツボダーウィンとの密接な関係、医療への応用可能性など幅広いエピソードも満載だ。本書を読めば、自分の半径1km以内でフジツボに一番詳しい人間になれるかもしれない。

『まんが医学の歴史』キャラが際立つ医学界の偉人たち

まんが医学の歴史

まんが医学の歴史

 

タイトル通り人類誕生から現在までの医学史を描いたマンガである。

医学の父ヒポクラテス、西洋医学停滞の元凶ガレノス、近代外科学の始祖パレ、近代生理学の父ハーヴェイ、実験医学の父ハンター、その弟子であり種痘法の開発で知られるジェンナー、自然発生説の否定で有名なパスツール、細菌学の父コッホ、二重らせん構造の発見者ワトソンとクリック、世界で初めてiPS細胞の作成に成功した山中伸弥教授など、その時代の医学に大きなインパクトを与えた人物を取り上げて医学の歴史を一気に駆け抜ける。

『太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上・下』日本が勝っていた6ヶ月間

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上 (文春文庫)

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上 (文春文庫)

 

1942年12月8日の真珠湾攻撃から1942年6月のミッドウェイ海戦まで日本は勝っていた。本書はその「日本が勝っていた」約6ヶ月の海戦に焦点をあてたノンフィクションである。海軍史家の著者イアントールは、当時の戦闘報告、手記、文献、研究成果などをもとに当時の状況を臨場感たっぷりに描く。

なかでも、刻々と変わる戦況に応じて日米の海軍上層部(日本は山本五十六南雲忠一、アメリカはニミッツなど)が意思決定をしていく場面は印象に残った。自分がもし山本なら南雲なら、あるいはミニッツならと読み進めていくのも面白いかもしれない。

ちなみに本書は、著者による太平洋戦争海戦史三部作の第一作目にあたるという。アメリカではすでに二作目『太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで』が刊行されている。近々日本でも翻訳版が発売予定。

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下 (文春文庫)

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下 (文春文庫)

 

『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』脳科学のわかりやすい手引書

記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)
 

日進月歩の科学分野において、15年前に出版された本書など、情報鮮度が期待できずいまさら読む価値はないと思う向きはあるかもしれない。それでも「脳」に興味があり、わかりやすい入門書はないかと考えるすべての人に本書をおすすめしたい。最新の研究成果や応用技術を期待する人には物足りないかもしれないが、基本概念とメカニズムの説明が中心なので初学者には充分すぎる内容だと思う。

著者独特の言い回しもすばらしい。たとえば「海馬」については、「海馬は記憶すべきものを『取捨選択』して、記憶の貯蔵庫に送りだしていると考えられています。海馬とはいわば情報の『ふるい』です。記憶の仕分け屋といってもいいでしょう」

「神経回路」については、「神経回路を、電車の線路にたとえるならば、増殖と発芽は、在来線に新しい線路をつないだり、駅を新設したりすることに相当しますが、シナプス可塑性は、あまり利用されていなかった路線の電車の本数が増えて乗換駅が盛んに利用されるようになることに相当します」

ちなみに記憶力を謳うタイトルだけあって、読み進めれば進めるほど知識が増強され賢くなっていくような気持ちにさせられる。おそらくそれは気のせいではない。理解しやすいように章立てされているし、大局から細部という説明姿勢も一貫している。そして著者自身、羅列ほど記憶しにくいものはないと本書で語っているのだ。

『大統領でたどるアメリカの歴史 (岩波ジュニア新書)』歴代大統領の履歴書

大統領でたどるアメリカの歴史 (岩波ジュニア新書)

大統領でたどるアメリカの歴史 (岩波ジュニア新書)

 

アメリカ大統領選が熱気を帯びてきた。不動産王というより暴言王として注目を集めるドナルド・トランプ。実績・知名度ナンバーワンのヒラリー・クリントン。この二人を軸に序盤戦が進行しているように見える。まだ建国して250年に満たないこの国の選挙戦は、いまや世界中が注目する一大イベントである。

1776年に大英帝国から独立したアメリカは、建国以来44人の大統領に導かれ、いまや他国を寄せつけないほど圧倒的な国力を誇る超大国に変貌した。本書はアメリカが歩んできた歴史と、その中で国民を導いてきた歴代大統領の来歴に焦点をあてた読み物だ。時代背景、大統領個人のエピソード、どちらもほどよい分量で非常に読みやすくまとまっている。

『「全世界史」講義 教養に効く!人類5000年史』知的興奮がとまらない空前の歴史本

「全世界史」講義 I古代・中世編: 教養に効く!人類5000年史

「全世界史」講義 I古代・中世編: 教養に効く!人類5000年史

 

「5000年という文字が発明されてから現在までの歳月を一つの流れでとらえたい」。本書はビジネス界きっての読書家で、恐るべき博覧強記ぶりで知られるライフネット生命出口治明会長(現立命館アジア太平洋大学学長)が著した人類5000年史である。

読んでいく中で著者の鋭い指摘に何度も目から鱗が落ちた。いくつか例をあげよう。たとえばBC500年頃、中国・ギリシャ・インドで同時期に数多くの哲学者や思想家、宗教家や芸術家が出現したことはよく知られている。その背景について著者は、「BC500年頃からの鉄器の普及と地球の温暖化です。このふたつによって農業の生産性が上昇し、世界は一斉に高度成長時代に突入しました。社会に芸術家や知識人を養う余裕が生まれたのです。」と、さらりと説明してみせる。

さらに、旧約聖書成立の引き金については、「エルサレムに帰った人々がペルシャという世界帝国に対して、自分たちのアイデンティティの旗を掲げて、編んだ書物が旧約聖書だったのです。同様の例には、ギリシャ人がフェニキア人に対抗して書いた『イーリアス』『オデュッセイア』や、日本の『古事記』『日本書紀』などが挙げられます。」これまた、納得の説明に思わず頷いてしまう。

ほかにも全文引用したくなるような記述が山ほどある。万里の長城に化けた鄭和の大船団、グーテンベルクより大きな影響を及ぼしたアルド印刷所、スペイン没落の決定打となったフェリペ二世による血の純潔規定、実は世界のGDPシェア4-5%を占めていた信長時代の日本、インドのまねから始まった大英帝国産業革命など。詳細はぜひ本書をあたってほしい。今年上半期オススメの1冊である。

「全世界史」講義 II近世・近現代編:教養に効く! 人類5000年史

「全世界史」講義 II近世・近現代編:教養に効く! 人類5000年史